
患者さんは病気を治すために病院や診療所を訪ねます。病気を治すためには薬が必要なことが多いので、多くの方が「病院に行くと薬を処方してもらうのが当たり前」、と考えておられます。確かに多くの病気は薬を使わないと治療が出来ないのは事実です。
しかし病気を治すために薬の他にもう一つ、とても大切なことがあります。それは病気のことをよく知ることです。病気のことをよく知って、例えば食事を工夫したり十分に休養すれば、薬を使わないで、もしくはほんの少しの薬で病気が良くなることがあることは、多くの方がご存知でしょう。
風邪や腹痛などの急性の病気でも高血圧や糖尿病などの慢性の病気でもこのことは言えます。
軽い高血圧であるのに「あなたはこの薬を一生飲み続けなければいけません」と医者に言われて絶望しておられる患者さんにお会いすることが時々あります。その中の何人かは塩分を控えたり、運動療法をすることで薬を飲まなくても良くなりました。
医師は病気を治すために薬を服用する以外にできる方法を患者様に伝える義務があります。
「日本の医療は薬漬け」と言われて久しいですが、これはかつて薬を処方することによる差益が医療機関の大きな収入になっていたからです。時間をかけて患者さんに病気の説明をするよりも薬をたくさん出すほうが儲けになるので多くの医師はそうしたし、ほとんどの患者さんはそれに慣れてきたのです。しかし、本当に良い医療はからだの自然回復カを最大限に利用することです。
そのためには病気の知識を患者様と共有することが大切なので、わたしは病気の説明に時間をかけます。
「治療法について患者に理解していただき同意を得る」という意味の「インフォームドコンセント」という言葉があります。私の申し上げる「病気の知識を患者様と共有すること」の中にインフォームドコンセントが含まれていることはいうまでもありません。
「病気の知識なんていらん。とにかく治してくれや」とおっしゃる「おまかせコース」をご希望の方もときどきおられますが、それでもできるだけ分かってもらえるように努めています。