
大阪府医師共同組合の機関紙「医師協タイムズ」から「父の思い出」のコーナーへ投稿の依頼を頂きました。
父の遺志を継いで当地で開業して1年と少しですが、父への感謝の意をレクイエムとして綴ってみました。
平成12年に72歳で他界した父の趣味は、囲碁、漢詩づくり、美術品鑑賞、大相撲観戦などでした。夜診が始まる前に夕食を摂りながらテレビで相撲を見る時間が、忙しい父と子供の私がともに過ごす貴重な時間でした。日曜日はデパートへ書画、陶芸などを見に行く時にお供をしました。子供に美術品はわかりませんが、心斎橋を父と一緒に歩くだけでもうれしいものでした。
家の中では物静かであまり口をきかない父でした。小学生の私に「少年老い易く学なり難し」を紐解いて、「男だったら後世に残る仕事をしたいものだ」と解説してくれたことがありましたが、私の進学について具体的に意見することも、手を出された記憶もありません。生涯たった一度だけ、「なぜ勉強せんのか」と浪人中に頭をぽかりとやられたことがありました。涙を浮かべている父の顔を見て、ずっと我慢していた歯がゆい思いに気づき、叩かれた頭の痛さよりも申し訳なさで心が痛んだことを昨日のことのように覚えています。
父の他界後3年目に、閉じていた診療所を再開しましたが、父に診察されたことを懐かしむ患者さんの話を聞き、また几帳面な字で書き綴られた父の学位論文を没後に初めて目にしたとき、改めて父の人柄を知るところもありました。私が医師会に入会した折、多くの先生方に暖かく迎えていただいたのも、熱心に医師会活動をしていた父のおかげだと感謝しています。
堺市医師会 山尾 卓司